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毎夜、月を眺めていた。
たったひとりで。
静かな部屋で。
夜空を眺めては、祈りごと。
ずっと変わらない、たった一つの純粋な思い。
『いつか歩けますように・・・』
生まれてからずっと、同じ部屋で過ごしてきた。
15年間生きてきた中で、部屋から出たのは数えられるだけしかない。
幼稚園や学校へも行かず、部屋から出してもらえない。
そんな生活をしているのは、華(ハナ)という15歳の少女。
華の足は生まれてからずっと、動かない。
だから一度も歩いたことがない。
しかし元々悪かったのは足だけではなくて。
いつだったか、お医者様に「あと数年の命」だと告げられたことがある。
きっとそれが、「歩きたい」と思い始めたキッカケだと思う。
お医者様に告げられてから8年以上経った今も、華は生きている。
何も出来やしないのに…。
ベッドの上から、移動する事もなく。
いっそ死んでしまえばいいのに、と思うときもある。
それでも生きている事には、何か意味があるのかもしれないとか思う自分もいて…。
ずっと昔に読んだ何かの本に、書いてあった。
お月様には、人間の願いを叶える力があるんだって。
今の華が出来ること。
お月様に願うこと。
Luna crescent
もう夜遅くといった時間帯、家政婦さんが運んでくれた食事を終え、カーテンを開けた。
空は薄暗い藍色に染まっていて、何だか切ない。
雲がなくて、月と星がよく見える。今日は綺麗な三日月だ。
そしていつものように、手を組み、目を瞑る。
『お願いします、お月様。いつか歩けますように・・・』
誰も聞いてはいない、毎夜紡ぐ言葉。
それからも数分祈り続け、窓を開けたまま、眠りに就く。
気がついたときには、目の前が真っ暗になっていた。
自分自身の足や手さえ見えない程に、周りが闇に染まっていて、恐怖を感じた。
そしてワケが解らないまま周りを見渡していると、急に目の前が明るくなった。
そこに現れたのは、とっても小さな女の子。
黄色の薄っぺらい服を纏い、真っ赤な靴を履いている。
そして綺麗な金髪に、漆黒の瞳、細い身体。
背中からは蝶々のような羽が生えていて、ニコニコ微笑みながら、華の前に浮いている。
「あなただね。呼んでくれて、ありがとう。丁度こっちに来たいと思っていたの。はじめまして。私の名前はクレセントだよ」
突然自己紹介などされても、冷静に理解など出来ない。
「んーと、よくわかってないみたいー?」
そう聞かれ、即座に頷いた。
「信じるも信じないもあなた次第。1回しか言わないよ?」
「・・・うん」
そうしてクレセントは、自分の事と、何をしに来たのかを、ゆっくりと話してくれた。
そしてわかったのは、クレセントは三日月の妖精で、華の願いを叶えに来たということ。
月の妖精には色々と種類があって、人間が名づけた月の名前の分だけ存在する。
華が初めて月に願った日が三日月だったので、三日月の妖精が叶えるらしい。
満月に初めて願いを唱えれば満月の妖精が、新月なら新月の妖精が現れる。
そして願う日数も、月によって変わってくる。
三日月の精は、人間が三千回願った日に、その人間の前に現れる。
華の願いは、今日で三千回に達したのだ。
妖精たちは月に住んでるわけではないが、実際に移動するのは力を使うため、願いを叶える日だけ。
だから、契約をするためにその人間の夢に飛んできたのだという。
しかしクレセントは、一拍を置いてもう一度話し始めた。
「でもね、悪いけど、完璧に歩けるようには出来ないの」
「え・・・?」
「あなたの願いは、歩けるようになりますように、よね?それを叶えてしまうと、あなたの人生を大きく変えることになるわ。そして出会う人の人生を変えてしまうこともあり得る。それは重罪に値するの。かえってあなたの寿命を短くしてしまう結果になってしまうかもしれない。人間の寿命は元々決められているのよ。どう生きるのかも、すべて最初から決められていること。それを変えるには、私たちには荷が重過ぎる。変えていいのは、その人間と、神様だけ」
そこでクレセントは一度話を切った。
「・・・それじゃあ、あたしの足はどうなるの?」
「私が出来るのは、精々立つところまで。それからはあなたのリハビリ次第。・・・あなたには選択権があるわ。今、私の力を借りて、立てるようになるか、もう一度三千回の願い事をして、別の願いを叶えるか・・・」
クレセントはそう言葉を続けた。もう一度三千回?
「・・・今のまま他の願い事は頼めない・・・?」
「叶えられないわ。私は、『歩きたい』というあなたの意思へ飛ばされたんだもの。そろそろ、時間よ?どうする?」
「え・・・?」
「もし今あなたが目を覚ませば、あたしとの交渉はこのまま決裂っていうこと。それも運命よ」
時間は限られている。
今の時間の中で、選ばなくてはいけない。
だけど答えなんて、すぐには出せない・・・。
「華、 今日はもう朝みたい。あなたが起きようとしているわ」
「え・・・っ」
「・・・仕方ないね。またあした、会いに来るわ」
華が不安そうな表情を露にすると、クレセントはふんわりと微笑んだ。
「明日の夜に、あたしの名前を呼んで?また飛んできてあげるから」
クレセントはもう一度微笑み、ゆっくりと消えていった。
そして華は、次の瞬間には自室の天井を見上げていた。
タイトルは「Luna crescent」です。
何語だったか忘れたけど、「三日月」という意味です。
何だかよくわからない内容になってしまいました(>_<)
2005.05.28 壱冴
修正/05.08.20
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